Date:2020.01.07
最近とっても憂慮することがあります。
〜自動車業界の未来〜
これまで世界の産業を牽引してきた自動車業界がとっても心配なのである。
業界からは「ほっといてくれ」と怒られそうですが、約30年近くその業界に携わってきたのだから気になってもしょうがない。
昔の仲間や友人、知人、それにお客様がいるのだからしょうがない。
という訳で
今回は、自動車業界から離れて見えてくる、経営学の視点による「自動車業界(とくに自動車正規販売店について)の未来」
について考えてみます。
Contents
まずはポジショニング論の観点から自動車業界の競争戦略・競争優位戦略をみてみましょう。
自動車という商品は消費者に、ブランドごとのアイデンティティや個性、特徴などが非常に認知されています。
そういう意味で各メーカーは、差別化により市場におけるポジショニングを図り、技術革新、マーケティング戦略、販売戦略で市場マトリックスの配置が明確であるといえます。
たとえばフェラーリとクライスラー、トヨタ、スズキなど、各メーカーごとのすみ分けって理解しやすいですよね。
これが販売店となると少し戦略的に違ってきます。
たとえば、同一メーカーの販売店って違いがあまりわかんないですよね。
ブランドごとに統一されたCI、同じ商品、同じバリエーション、同じサービス内容など、わかりやすいといえば立地の違いくらいでしょうか(もっとも、スタッフのスキルやさまざまなサービスで差別化に取り組まれている販売店は多々ございますが、顧客にはなかなか伝わり難く比較し難い)。
ということで「他販売店よりも多く値引きする」、「サービス品をつける」などのコストで他社と差をつける戦略をとりがちです。
自動車における正規販売店で、販売価格が異なるって結構当たり前のごとく常識化されていますが(いわゆる値引き交渉)、他の業界やブランド、たとえばルイ・ヴィトン、シャネル、エルメス、ロレックスなどの正規販売店で値引き交渉って、皆さん普通にされます?
そういった意味ではメーカーの差別化戦略が販売現場ではうまく機能されず、販売店においては利益を削って販売するコストリーダーシップに走ってしまうのが実情です(もちろんそういった販売店ばかりではないし、それが善いのか悪いのかという議論は別にして)。
企業(販売店)を取り巻く5つの外部要因(売り手、買い手、既存競合、新規参入、代替品)について考えてみましょう
まずは売り先であるお客様のニーズの変化はどうか。
昨年、大学生と大学院生の20代前半の男女学生にインタビューしたところ、
自動車を自身で保有している割合は 15%にも満たなかったのである。
さらに、今後保有する予定と答えた人は、10,9%という回答結果が得られている(国土交通省 MLITより)。
少子化の時代においての割合であることを鑑みると、
もはや若者(これから生産や消費の核となる年齢層)に自動車を購入してもらえる見込みはかなり低そうである。
同時に高齢者の方々においては、高齢による不幸な事故が大きな社会問題となっている昨今、
免許を返納される方がますます増加することが予想される。
つまり新規販売先と既存の代替先が同時に減少していくのである。
買い手先であるサプライヤーについてはどうでしょうか。
賢いサプライヤー企業の経営者の方々は、さらに危機感を感じ取っているでしょうから、
たとえば別の業界への転換や業態変化の可能性を探ることでしょう。
(一次的に携わっている自動車メーカーや販売店にとって業界移動や業態変化は極めて困難である *「イノベーションのジレンマ」を参照 https://gm-institute.co.jp/654)
必然的に未来を見据えたサプライヤーとのパワーバランスは、買い手有利に変化していくでしょう。
既存競合についてはどうだろう。
縮小する顧客ターゲットをめぐり価格競争が激化し、売り手の競争力(値引き交渉力)が高まることで業界全体の収益性が激減するでしょう(先述のコストリーダーシップによる競争激化) 。
価格戦争への突入ですね。
共食い共倒れ現象ですね。
新規参入についてはどうでしょう。
単純に自動車製造や販売店に新たに参入することは考え難いですが、
こと販売店に関しては、
ニッチな市場を劇的に新たな手法で総ざらいするような、資金力、組織力、チャネルの優位性、コスト構造をもつ企業が現れると、とんでもないことになります(昔ながらの街の電気屋さん、地域の酒屋さん、衣料品小売店、薬屋さんなどの現状)。
これはもしかしたら既存競合からの参入かもしれないし、新規参入の企業かもしれません(後述の自動車EV化による影響)。
このような参入企業がレッドオーシャンである市場に参入する際には、短期的に勝負をつけるよう、既存の業界に激震が走る「規模の経済性を効かせた戦略」で参入してくるに違いません。
そして代替品
これについてが最も脅威となる外部要因となるでしょう。
サブスクリプション、シェアリング、ライドシェア、スマートタクシーなどに加え、
IoTやAIの発達に伴うMaaSなど次世代交通インフラの整備は、社会問題や環境問題と相まって、
加速度的に進むでしょう。
2020年のCES(世界最大のデジタル技術見本市)で発表されたトヨタ自動車のコネクテッド・シティ「WovenCity(ウーブンシティ)」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54098420X00C20A1I00000/
が未来の自動車と人のあり方を物語っています(トヨタ自動車はモビリティカンパニーへの脱却を公式に発表しています)。
自動車業界のパラダイム・シフト、破壊的イノベーションはすでに始まっているといっても過言ではないと思いませんか。
さらに追加するならば、自動車のEV化
2038年には世界の新車販売台数の50%超がEVになり、2050年には約90%がEV化されると予想されています。
ここでは詳しく触れませんが、EVは車体構造がシンプルで部品点数が大幅に減少します。
従来のエンジン式自動車に比べ、専門性や競争優位の戦略(特別に調整されたバリューチェーン)などの不要性から、多くの参入障壁が取り除かれ、高い技術をもつ企業の新規参入が促進されます。
そして販売店においては部品点数が(特にエンジン、トランスミッションなど高額の部品)がなくなることで、ランニングコストにかかるアフターサービス費が激減します。
これは自動車販売店においては大問題であるが、迫りくる事実なのです。
マイケル・E・ポーターが提唱した競争戦略や競争優位の戦略におけるポジショニング論をもってしても、自動車を取り巻く業界はどうにもならない業界であることが理解できます。
次に資源ベース論(リソース・ベースド・ビュー)と知識ベース論(ナレッジ・ベースド・ビュー)の観点から見てみましょう。
資源ベース論では、企業の競争優位の源泉を企業の内部要因の分析から明らかにしようという立場をとっており(1980年代前半のワーナーフェルトやバーニーの研究)、グラントによれば「戦略の第一義的な基礎および収益性の主要な源泉としての企業の資源と能力の役割に関する研究」であるとしている。
ちょっとややこしいけれど、前述のポーターのポジショニング論が競争優位の源泉を「企業の外部要因」にあると主張しているのに対して、資源ベース論では「企業の内部要因」にあると主張している。
自社の経営資源(ヒト・モノ・資金・情報・組織)について、市場での内部要因による競争優位の源泉を把握するためのフレームワーク
すべての経営資源が経済的な価値を持っているかどうかの分析
すべての経営資源が他社にはないものかどうかの分析
すべての経営資源が歴史、因果の曖昧さ(ブラック・ボックス性)、社会的な複雑性、特許などの要素を含んでいるかどうかの分析
すべての経営資源が活用できる組織かどうかの分析
・余裕あるバランスシート(特に自己資本比率 40%以上、内部留保 3月商以上、借入先との交渉力や柔軟なリスケ対応など返済柔軟性)
・トップリーダーの経営上の正しい知識、豊富な能力と感性、柔軟性、決断力
・優秀な戦略策定者
・優秀なリーダーとフォロワーのリーダーシップ (インフォーマルなチーム構築)
・組織の遂行能力
・柔軟で変革可能な組織風土
・などなど
*諸説賛否あり
業界のパラダイムの中で組織の知識やスキル(資源ベースや知識ベース)など、これまで磨きをかけてきたコアとなるコンピタンス(経験、知識、ビジネス慣行など)は、業界をとりまく市場の環境が変化したときに、逆に足かせとなるリスクとも考えられる(企業は成功してきた経営慣行を、そう簡単には変えられないジレンマがある)。
自動車業界はこれまで販売台数を優先し、目標台数の必達に重きをおいてきた。
販売店においては、業界の外部要因が激減方向に風向きが変化してきている状況においてもなお、コストリーダーシップによるさらなる低コスト構造をも辞さない戦略で、さらに販売台数至上主義に舵をきっていくだろう。
販売台数が右肩下がりに低下していくと、売上高の低下と台あたり利益低下によるWの販売収益の減少に加え、将来における利益(ライフ・タイム・バリュー)も必然的に低下していく(車検・点検・修理などのメンテナンス利益や保険・有償保証費・アクセサリーグッズなどの周辺利益等)。
さらに、新車や中古車販売時には、これまで使用してきた車のいわゆる「下取り車」という付帯ビジネス、ローンやリース販売における手数料収入、ボディコーティングなどの利益、登録時の手続き費用などの手数料収入など、単純な1台あたり販売利益以外にも実は多くの収益があるのですが、それら含めて減収していくのである。
これは本当に恐ろしい事態を招く可能性があります。
世の中には過去にも市場環境の変化によって消滅(極小化)していった業界は数多く存在します。
たとえばミシン業界、フィルム業界、和服業界、映画館、銭湯などなど。。。
・人材を獲得し育成し活用する文化
・柔軟な意思決定と行動に対応できる組織の構築
・無形資源(知識創造、組織文化の構築、シンプル・ルールに従った組織のルーティンなど)を重視する経営
・企業変革、組織変革、コスト構造変革の必要性を受容する器量
・市場変化にダイナミックに適応するケイパビリティ(能力)
自動車業界の悲観を綴ってきているようですが、本当に伝えたいことは、
これらの事に気づかない、目を背ける、獲得できない、活用できない企業は淘汰されるでしょうが、
気づき、直視し、獲得し、活かすことができれば 逆にチャンス になるということです。
この世界から自動車が消え去ることはきっとないでしょう。
ただ、そのあり方、関わり方、ビジネスモデルなどが変化するだけです。
その変化に経営を適応させる必要があるのです。
これまでのビジネス慣行を投げ捨てて、新たな習慣を企業が身につける必要が生じたのです。
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