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イノベーション(イノベーター)のジレンマを考える

Date:2019.10.25

Contents

序章

音楽の範囲が狭い世界

 

ここは空想の世界。時は1990年代。

この世の中に音楽を再生するあらゆる機械(CDプレーヤーやiPod、amazon musicやspotifyなど)がない世界。

ラジオやTVからの音楽はすべて生演奏、自宅で音楽を聴くためにはプレイヤーを連れてきて演奏してもらうしかない世界。

音楽を聴くことができるのは、まさに目の前でプレイヤーが演奏しているその瞬間だけの世界です。

 

一人の発明家

 

あなたは音楽をこよなく愛する若者。

そんな不自由な音楽を自由にいつでもどこでも聴きたいと考え、音楽を記録、記憶し、再生する機械をついに発明し、開発製造し、発売することに成功しました。

 

 

音楽再生初号機

 

音楽は全て生演奏という時代、当然ながらその音質は頂点ということになります。

音楽再生機の初号機の発売当初はノイズが多く、音も劣化し、ライブでしか聴くことのできない音楽の常識的なクリアな音質とは程遠い代物でした。

 

 

破壊的イノベーション

業界からの酷評

 

当時、音楽を生業としていたコンサート会場、ライブハウス、ジャズバー、クラブなどのオーナーや各種関係者からは

 

「なんだ?この音質は?こんなの音楽じゃねぇ〜!」

「ライブのグルーブ感が伝わんね〜よ!」

「箱から音が出てるだけで、歌手やプレイヤーの姿が見えないなんて、客は誰も望んでねぇんだよ!」

「自宅で音楽を聴きたいなんて誰も思ってねぇよ!」

「好きな曲を好きな時に好きな場所で好き勝手に聴くなんて習慣はないからなぁ〜」

「目の前のアーティストの演奏する音楽が ¥1,000-で聴けるのに、こんな劣化した音質の音楽を流すだけの機械に ¥30,000-も出す奴なんている訳ねぇだろうが!」

 

などなど…

あまりにも音楽を取り巻く環境や常識が違いすぎていたため、

散々な評価を下され、相手にもされませんでした。

 

炸裂

 

 

『ボンッ!!!』

 

 

 

???

 

 

爆発しました

 

 

「破壊的イノベーション」が。。。

 

 

市場からの評判

 

専門家たちの予想を裏切り、世間の人々はこの機械を購入しました。

「音楽が自宅でくつろぎながら、キッチンで料理をしながら、家族で夕食を楽しみながら、聴けるなんて!」

当初は音楽狂のニッチな顧客が飛びつきました。

その後、そんなニッチな顧客のリッチな音楽環境に憧れるフォロワーたちが続きました。

 

会社の成長

 

あなたの発明した製品への需要が高まり、

あなたの会社は徐々に生産や流通、販売が忙しくなり、人を増やし、工場も大きくして、供給体制を整えていく投資をし続けました。

そして、”もっと世界に音楽を拡めたい、音楽は世界を救う” という信念のもと、

まだまだマニアな間や流行に敏感な若者たちの間でのみ話題となっていた、この商品の拡販に乗り出します。

新聞、TV、ラジオ、雑誌、web、SNSなど(空想世界につき時代背景はなしと言う事で…)コミュニケーション活動。

その手軽さ、気軽さ、便利さで、あなたの商品はまたたく間に世の中で売れました。売れまくりました。

 

持続的イノベーション

資源の成長

 

そのうち、最初にあなたの商品をこぞって購入してくれたマニアの間から

 

「音質がね・・・」

「機能がちょっと・・・」

「価格がネックだよね・・・」

「馬鹿でかすぎて置くところが・・・」

 

などなど…
人の欲求を満たそうとする向上心はとどまりません。ある程度までは・・・。

 

飛躍

 

 

『ピンポ〜ン!』

 

 

???

 

 

跳ねました♪

 

 

「持続的イノベーション」です。。。

 

さらなる成長

 

あなたの会社はさらに大きくなり、株式も上場して資金は豊富になり、各部署に優秀で専門的な人材が集まりました。

あなたはその資金と人材をフル活用して、

市場を精緻に調査して顧客の意見やニーズをつぶさに取り入れ、改良につぐ改良を重ね、

すべての顧客が望む以上の性能を持った商品として生まれ変わりました。

発売当初に批判された音質にこだわり、

よりクリアに、よりリアルに、

スピーカーから出力されるサウンドに磨きをかけました。

 

市場が成長すると、競合参入してくる音響メーカーがどんどん増え、あなたの製品を模倣した商品がわんさか市場にあふれてきました。

しかしそのおかげで、各企業の切磋琢磨な技術革新によって製品が持つ性能はどんどん向上し、ムダに高品質でカゲキに低価格な製品が当たり前になりました。

 

 

破壊的イノベーションがもたらす陰

敗者の末路

 

一方で、音楽が身近になったことで、コンサート会場、ライブハウス、ジャズバー、クラブなどのオーナーや各種関係者に加え、

音響エンジニア、照明スタッフ、機材メーカー、さらには告知担当に印刷屋、チケットもぎスタッフなどなど、

「元祖」音楽を世界に届けていた業界や職業は、廃れ消え去っていきました。

「元祖」音楽業界にとっては、音響メーカーという業界の登場が、

まさに『破壊的イノベーション』だったわけです。

当初は馬鹿にしていたその業界によって、廃業や一部のマニアによるニッチな世界へと追いやられたわけです。

 

持続的イノベーションの連続

 

あなたの会社を含む音響を取り巻く業界は、さらなる技術革新を果たします。

カセットテープからCDへ 『ピンポ〜ン!』

CDからMDへ 『ピンポ〜ン!』

ラジオとカセットテープ・プレイヤーが一体となったラジカセ 『ピンポ〜ン!』

パーツが分割している大型ステレオから一体型コンポ 『ピンポ〜ン!』

無骨で機械的なデザインからカラフルでおしゃれなデザイン 『ピンポ〜ン!』

『ピンポ〜ン!』『ピンポ〜ン!』『ピンポ〜ン!』・・・

 

持続的イノベーションの結末

 

業界による持続的イノベーションによる製品の性能が、いつしか顧客の性能への需要やニーズを追い越していきました。

そして、顧客の求めない技術への投資は、回収できないコスト構造として会社を悩まします。

市場調査部は顧客のニーズをさらに精緻に探り、製造部は稼働能力に応じた大量生産を繰り返し、販売部は大量在庫された商品をディスカウントをしてでも売りさばきます。

低下した利益率で経営を持続させるために経費や人員を削減しつつもギリギリの人員で個々の労働効率と生産性を高めることで、従業員たちの疲弊と不満のループが始まります。

 

過去のイノベーターが新たな破壊的イノベーションに遭遇するとき

 

そんな時、とある家電メーカーが「ウォークマン」という名の商品を世に誕生させました。

ステレオを携帯し、音楽を持ち運ぶことができる、世界初の製品でした。

 

『ボンッ!!!』

 

 

過去のイノベーターの反応

 

あなたやあなたの周りの業界人たちは、当初、ウォークマンに対し

「なんだ?この音質は?こんなの音楽じゃねぇ〜!」

「歩きながら音楽を聴きたいなんて誰も思ってねぇよ!」

「録音機能が無いなんて・・・。」

「そんな小っちゃなヘッドフォンは格好悪くて受け入れられねぇよ!」

と揶揄しては馬鹿にしていました。

聞いたこと、言われたことのあるセリフです。

 

市場の反応

 

あなたとあなたの周りの業界人たちの予想を裏切り、世間の人々はこの機械を購入しました。

当初は、流行に敏感でおしゃれでニッチな若者が飛びつきました。

その後、そんなおしゃれでニッチな若者のライフスタイルに憧れるフォロワーたちが続きました。

 

新たなイノベーターがとる方策

 

ウォークマンへの需要が高まり、とある家電メーカーは徐々に生産や流通、販売が忙しくなり、人を増やし、工場も大きくして、供給体制を整えていく投資をし続けました。

そして、「屋外へ持ち出して、歩きながら、動きながら楽しむ」というコンセプトを前面に打ち出した、
流行に敏感な若者たちの間でのみ話題となっていたこの商品の拡販に乗り出します。

新聞、TV、ラジオ、雑誌、web、SNSなどへのコミュニケーション活動。

その斬新さ、手軽さ、便利さで、ウォークマンはまたたく間に世の中で売れました。売れまくりました。

 

結末の歴史

 

歴史は繰り返します。

競合参入が増え、市場調査と顧客ニーズを徹底的に取り入れ、技術革新が促進され、改良に改良を重ね、

そして、業界による持続的イノベーションによる製品の性能が、顧客の性能への需要やニーズを追い越しました。

 

イノベーション(イノベーター)のジレンマ

形を変えた破壊的イノベーション

 

そんな時、とあるパソコンメーカーが「iPod」という名の商品と「iTunes Store」という名のサービスを世に誕生させました。

ステレオを携帯し、音楽を持ち運ぶことができる、という点ではウォークマンからの持続的技術でしたが、音楽配信というシステムによる革命的なデバイスという点でこれらは「破壊的イノベーション」でした。

「1000曲をポケットに」

 

『ボンッ!!!』

 

Apple MUSIC 『ピンポ〜ン!

amazon music  『ピンポ〜ン!』

Spotify 『ピンポ〜ン!』

Google Play Music 『ピンポ〜ン!』

 

ジレンマに陥るメカニズム

 

あなたの会社は「ウォークマン」が登場し、世の中で流行したときも、

「iPod」や「iTunes store」が流行したときも、

かつて貯蓄していた豊富な資金、人材、市場調査力、顧客ニーズの把握力、それらを設計・生産できる技術力を投入し、遅ればせながら追従し、対抗商品を発売しました。

ところが、全く売れませんでした。

あまりにも遅すぎました・・・

世の中の流行は、先駆商品こそがオリジナルであり、その世界における商品の代名詞の価値を確立していました。

あなたの会社は、その気になればもっと早くよく似た商品を発売し、オリジナルの先駆企業よりも豊富な資源をもって市場を獲得することは出来ました。

しかしながら、そうはしませんでした。いや、出来ませんでした。

なぜならその商品は、あまりにも単純で機能が少なく、用途すら明確でない、利益率の低い商品だったからである。

なにより「そんな商品が欲しい」という顧客の声が市場調査部からはあがってこず、「顧客は求めていない」「市場は無い」と考えたからである。

そんな市場の無い、顧客も求めない、利益率の低い商品開発に資源を投入すれば、専門性と技術力の高い社員たちや株主から反感を買い、経営者としての能力を問われるのは必至である、と判断したからである。

ある意味この判断は、優良企業の優秀な経営者の正しい判断と言えます。

持続的イノベーションのもとでは、という条件付きだが。

他方、破壊的イノベーションのもとでは、残念ながら打ち手の失敗と言わざるを得ないのです。

 

 

イノベーションへの解

 

あなたの会社は失敗しました。

音響業界から撤退しました。

 

しかし、あなたにとって失敗ではありませんでした。

なぜなら、多くのことを学び成長したからです。

そう、「イノベーション(イノベーター)のジレンマ」ということを。

 

そして次に破壊的技術に遭遇したときには、同じ過ちをおこさない「イノベーションへの解」の自信もつきました。

 

あなたは次なる破壊的イノベーションの探求に向け、日夜ワクワクする日々を過ごしているのです。

 

 

 

クレイトン・クリステンセンによる
「イノベーションのジレンマ」

技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

筆者は、この著書を今から20年以上前の1997年に発表し、今もなおイノベーションの教科書として多くの経営学研究者や経営者のバイブルとして愛読されている。

上述のストーリーのように、企業が成功から失敗へと転落する理由は、官僚主義や慢心、血族経営、近視眼的な投資などだけでなく、優良企業が優れた経営によって失敗に陥る罠があることを指摘している。

 

実例

ハードディスク業界における破壊的イノベーションがもたらした企業のジレンマ

掘削機業界における破壊的イノベーションがもたらした企業のジレンマ

 

優良企業が失敗する理由

1、顧客の意見に耳を傾ける

2、求められたものを提供する技術に積極投資する

3、利益率の向上を目指す

4、小さな市場より大きな市場を目標とする

これら優良経営の慣行こそが破壊的技術の開発を困難にし、最終的に市場を奪われる原因となる

 

破壊的技術の原則

1、企業は顧客と投資家に資源を依存している

*破壊的技術に直面した経営者は、誰よりも早く破壊的技術を商品化する必要がある

*既存の市場に参入して熾烈な競争をするより、新市場を開拓したほうがリスクが少なく見返りが大きい

*その際に重要なことは、独立した組織をつくり新しい顧客の中で活動させることである

*一つの企業の中で二つのコスト構造や収益モデルを共存させることは難しく、「別々の組織」で「別々の顧客」を追求する必要がある

2、小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決しない

*経営者は常に組織の成長を維持しようとするが、企業が大きくなると成長率を維持することは難しくなる

*破壊的イノベーションが生む新たな小規模市場は、大企業の短期的な成長需要を満たすことができない

*破壊的技術の事業化は、小規模な組織にまかせ、独立した組織をスピンアウトさせるか、適度な規模の企業を買収する

3、存在しない市場は分析できない

*破壊的技術による製品がどのように使われ、どの程度の規模の市場になるかは事前に予測できない

*そのため、何度も試行錯誤できるように事業計画をたてる必要がある

4、組織の能力は無能力の決定的要因になる

*変化に直面したら、それに取組む能力が自社にあるか否かを判断しなければならない

*組織にできることとできないこととは、資源(人材、技術など)、プロセス(商品開発や製造プロセスなど)、価値基準(商品アイデアの良否などを判断する基準)の三要素によって決定される

*資源(人材)は訓練などで高めることができるが、プロセスや価値基準を変えることは難しい

*したがって組織の能力が不足していると判明したら、新しい仕事に適した別の組織を買収するか、独立した別組織を新設し、そな中で新しいプロセスと価値基準を育てなければならない

5、技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない

*一般に企業は高機能製品を開発し、より高いコスト構造を目指し優位に立とうとするが、そのうち顧客の高機能需要を追い越してしまう

*その結果、低価格の分野に空白が生じ、破壊的技術を採用した競争相手の入り込む余地が生まれる

*破壊的技術を製品化する際は、その特徴が評価される新しい市場を見つけるか、開拓する必要がある

 

経営者はどう対処すればいいのか

破壊的技術の原則と戦い、克服しようとしてもかならず失敗する。成功するには、破壊的技術が発展する背景にある力学を認識し、利用しなければならない。
 

1、破壊的技術の開発を、そのような技術を必要とする顧客がいる組織にまかせることで、プロジェクトに資源が流れるようにする

2、独立組織は、小さな勝利にも前向きになれるように小規模にする

3、失敗に備える。最初からうまくいくとは考えず、破壊的技術を商品化するための初期の努力は、学習の機会と捉えて、データを収集しながら修正する

4、躍進を期待しない。早い段階から行動し、主流市場とは別の現在の技術の特性にあった市場を見つる。主流市場にとっては魅力の薄い破壊的技術の特性が、新しい市場を作り出す要因となる

 

まとめ

 

いかがでしたか。

技術革新や優秀な経営慣行が、大企業や成功している企業を市場から引きづり降ろすことがあるという恐怖のメカニズム。

イノベーションのジレンマの原因は、もっと複雑で深い要因が広範囲にまで絡みあっています。

組織行動の変化、株主資本主義の崩壊、マーケティングの限界、想像性と創造性の欠如、企業における高齢化や旧態依然な働き方の終焉など。

世界は、成長の可能性と衰退の可能性を秘めた時代に突入しています。

そんな今こそ企業にとっては大小さまざまなイノベーションが必要であり、イノベーションがもたらす優位性、持続性、成長性、効率性と同時に、陥ってしまいやすい罠や負の要素などを理解することが大切なのではないでしょうか。

そして企業の役割は「社会をより良くするためである」という原則を忘れてはいけないのではないでしょうか。

 

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